Japanese English

北海道、本州、四国、九州という4つの大きな島から成る日本列島。
九州は、最も中国や朝鮮半島、東南アジアに近く、中でも九州北部は最もその影響が色濃く残る地域です。
日本人の主食である米は、朝鮮半島から渡ってきた渡来人が起源とされており、稲作の技術もその渡来人によって九州北部の和人(日本人の祖先)に最初に伝えられ、その後日本全体に広がったと言われています。また稲作だけでなく、土木建築や鉄を作る技術、漢字(文字)などをはじめ、仏教もこの渡来人によって日本に伝えられました。
国東半島は大陸からの〝海の道〟と東南アジアからの〝海の道〟がちょうど交差する地点にあるため、海外先進国からの多くの物資や文化は、この半島を経由して瀬戸内海を通り、京都や奈良などに伝わっていきました。西からと南からの〝海の道〟の交差点であり、先進国からの文明の中継地点だったこの国東半島は、日本の起源(成り立ち)に触れることができる重要な場所となっています。

神仏習合の発祥の地

ポリネシアなど南方地域や中国大陸の先進国から持ち込まれた文化や技術は、国東半島でもともと日本にあったそれらと融合し、調和します。その一つが〝神仏習合〟です。
神仏習合とは、日本にもともとあった古来の自然信仰(神道)と、大陸から伝わった仏教が、ともに認め合い、共存した日本独自の宗教文化です。この国東半島では、宇佐神宮がその興りの象徴とされています。
真木大堂に安置されている不動明王の木造の背後には、珍しく迦楼羅焔(かるらえん)が彫られています。迦楼羅(かるら)とはインド神話に登場する口から火を吐く神の鳥「ガルダ」のことで、南方アジアとこの国東半島の関連を窺わせるユニークな存在となっています。

文化や信仰が交じり合う聖なる半島

この地域は、神と仏と鬼が信仰されています。日本では一般的に鬼は災いをもたらす恐ろしいものとして認識されていますが、この国東では幸せを運ぶ頼もしく優しい存在として人々に愛されています。
国東半島には至る所に仁王や不動明王などの石像が立っており、また岩壁や巨石に仏像の彫刻を施した大きな磨崖仏も見ることができます。渡来人や和人が自分たちの石工の技術や仏に対する信仰心の強さを競い合っていたことが想像され、千数百年以上経った今でもその石工の技術者たちの息遣いを感じ取ることができます。
中国大陸など東アジアと南方アジアと日本古来の文化、神と仏と鬼という信仰の対象が見事に交わり出来上がった聖なる半島とも呼べるのがこの国東半島です。

国東半島に一円に広がる寺院群は「六郷満山」と呼ばれ、山岳宗教の行場(修行の場所)としても知られています。その山岳宗教は、神道と仏教が結びついてできたもので神仏習合のあり方の一つです。六郷満山のそれぞれの寺は修行僧たちの学び(修行)の拠点として、学問、修行、布教を行う役割を果たしていました。
鬼は古来より人知を超越した不思議な力を持つ存在として仏教の僧侶達の憧れの存在でした。寺を拠点に修行する僧侶達は不動明王を鬼の姿と重ね、その人知を超越した存在に近づこうと、岩山をよじ登り、鬼の棲む洞穴を削って「岩屋」(窟)と呼ばれる修行場を作り出し、それらを巡る「峯入り」という修行を行いました。
御許山を起点とし、寺から寺へ、行場から行場へと移りながら修行を重ね、国東半島の頂点に位置する両子寺(ふたごじ)までの険しい山や谷の約150kmの行程を踏破することに悟りを求めました。

その修行僧たちが歩いた道が今の「国東半島峯道ロングトレイル」。トレッキングやウォーキングの醍醐味を味わうことのできる登山道や遊歩道を追加するなどの工夫を加え、楽しく、そして心地よく歩けるトレイルとして修行僧たちが歩いた峯入り道を再構成したもので、総延長135kmの距離(全10区画)で構成されています。
このコースは、日本の原風景と言われるのどかな里山の田園風景あり、原生林あり、林業を生業とする人の手が加わった森林あり、岩場や鎖場もある変化に富んだコースとなっています。自然の力や人知を超越した存在となろうとして修行僧たちが歩いたその修行の道を追体験でき、また日本固有の精神文化と向き合うことができる聖なる古道、それが国東半島峯道ロングトレイルです。